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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)259号 判決 1967年1月30日

理由

被控訴人が昭和三八年一月一八日控訴人から金二〇万円を弁済期同年二月一八日の約定で借受け、その際、右債務の担保として被控訴人所有の高島株式会社の株式一〇〇〇株(五〇〇株券二枚)を控訴人に交付したこと、同年一月三一日控訴人は被控訴人の要請により右株式を控訴人名義に書換えたこと、その後右株式について控訴人に増資新株の割当通知があり、控訴人は自己の負担において新株払込金五万円を会社に払い込んで同社の増資新株一〇〇〇株(五〇〇株券二枚)を自己のものとして取得したこと、および被控訴人が同年二月一七日その借受元金二〇万円を控訴人に弁済のため現実に提供したこと、以上の事実はいずれも当事者に争いがない。

《証拠》を総合すると、つぎのとおり認定、判断される。

被控訴人は、前記のとおり、昭和三八年一月一八日控訴人から金二〇万円を弁済期同年二月一八日の約束で借受け、その担保として翌一九日本件株式一〇〇〇株を控訴人に交付したが、当時、同会社の株式(額面一株五〇円)の株価は一株二八〇円程度であり、近く増資新株の発行、割当てが予定されていたが新株発行後も額面価格をかなり上まわる株価が期待できる状況であつた。ところが本件株式は当時第三者の名義であつたので、そのままにしておくと、その第三者名義に新株が割当てられることになるので、被控訴人は控訴人に対し、右株式を控訴人もしくは控訴人の選ぶ適当な人の名義に書換え、その名義で増資新株の割当てが受けられるように手続を依頼し、控訴人はこれを承諾して、同年一月三一日右株式を控訴人名義に書換えの手続をした。

右依頼の趣旨は、いうまでもなく、増資新株の発行に伴う旧株の価格の低下により担保物の価格が減少するのを防ごうとするにあるのであるから、右合意に際して、ほかに特段の意思表示がなされたことの認められない本件の場合、控訴人名義で割当てられるべき新株は、当然、控訴人名義にする旧株とともに、実質上は被控訴人の所有として、これを上記消費貸借債務の担保とする趣旨の契約が成立したものと解するのが相当である。

ところが控訴人は、上記のように、昭和三八年一月三一日本件旧株を控訴人名義に書換えの手続をすますと、その後は、被控訴人は右株式についての名義書換ないしは新株引受を放棄したものであると主張し、同年二月一五日前後の頃被控訴人が借受金の一か月分利息として九〇〇〇円、右名義書換に要した足代として一〇〇〇円、合計一万円を控訴人方に持参(控訴人不在のためその妻が受領)したのを、受取る理由がないといつて直ちに返還し、また、被控訴人が、前記のように、同月一七日頃借受金二〇万円を弁済のため控訴人に現実に提供した際も、控訴人は新株の権利は自分のものであると主張した。さらに、控訴人は同月二七日増資新株一〇〇〇株の割当通知を受けたのであるが、翌二八日被控訴人から右新株払込金として五万円(郵便為替)を送金してきたのに、これも返送し、そして同年三月二二日自分の金で五万円を払込み、同年四月九日右新株一〇〇〇株(五〇〇株券二枚)を取得した。

以上のように認められ、上掲証拠中、右認定に反する部分は措信しがたい。控訴人は、本件旧株について被控訴人から名義書換の要請があつた際、被控訴人はこれに対する増資新株の引受権を控訴人に与えたものであると主張するが、これを肯認するに足りる証拠がない。(原審における控訴本人尋問の結果をみると、本件旧株の名義書換のことについて、控訴人は、増資新株割当てのための名義書換締切日の前日である昭和三八年一月三〇日、被控訴人から新株の割当てを受けないともつたいないから私に引受けてくれと強く要請されたので、翌三一日右旧株を私名義に書換えた旨供述しているが、もし被控訴人が右旧株についての新株引受権を控訴人に与えたのであれば、右新株を引受けるかどうかは、もつぱら控訴人の利害に関することで、被控訴人には何ら関係のないことなのであるから、そのことを被控訴人が強く要請するというようなことは通常ないはずであり、これを裏がえしていえば、被控訴人の強い要請により名義の書換えをしたということは、とりもなおさず、その名義書換が被控訴人のためのものであることを語るに帰するものということができよう。)

右認定の事実関係からすると、本件株式担保の性質が被控訴人主張のように譲渡担保であるかの問題を論ずるまでもなく、また、控訴人が右新株取得に要した費用について被控訴人に対し償還請求ができるかの問題は別として、いずれにしても右新株は、旧株とともに、その控訴人名義にかかわらず、当事者間の内部関係では、実質上、被控訴人の所有に属する担保物とみるのが相当であるところ、控訴人が同年四月一八日右新株一〇〇〇株(五〇〇株券二枚)を第三者に売却したことは当事者間に争いがなく、《証拠》を総合すると、控訴人は右新株を単価一九四円、一〇〇〇株合計一九万四〇〇〇円で売却し、手取料二〇〇〇円、取引税二九一円を控除されて差引一九万一七〇九円を取得したことが認められる。(被控訴人は、控訴人の右売却、取得代金を一九万五〇〇〇円と主張するが、これに添う甲第七号証の一の記載部分は、乙第八号証の一に照らして採用しがたい。)そうだとすると、ほかに特段の事情につき何らの主張立証がない本件においては、控訴人は右金員からその支出した払込金五万円を控除した一四万一七〇九円を利得し、被控訴人は同額の損害を受けたものというべく、控訴人は被控訴人に対し右金員を支払う義務があること明らかである。

よつて被控訴人の本訴請求は右の限度で認容し、その余は理由がないものとしてこれを棄却すべく、原判決が右限度を超えて支払いを命じた部分は失当として、その範囲でこれを変更

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